2011年7月1日金曜日

El servicio nuevo 3 新規事業を立ち上げる3 「地域社会のマップ作り→本当に切り込んで良いかの確認」

El servicio nuevo 2 新規事業を立ち上げる2」に続き、研修が実際に実施されるまでに至った経緯を、もう少し具体的に書いていきたいと思います。


私がこの市役所女性課に赴任した2009年11月、本プロジェクトに対する予算も人材も(正直なところ、スタッフのモチベーションも・・・)ほとんど皆無の状態にありました。どうやって彼らに、このプロジェクトの重要性を理解させ、時間と人と予算を割くだけの価値あるものを提供できるか。それが当初の私の課題でした。

予算はゼロ。何もない。構想もない。

そこで私は考えた。

「これは市役所内部の力だけではどうにもならない。外の力を借りよう。市役所の外にあるポテンシャルの高さを証明できれば、市役所も動くに違いない。というより、市役所が動かざるを得ない環境を作るためには、外堀から固める必要がある。つまりは、市役所が安心して動けるだけの”環境”を整えよう。初期投資分の予算は、市役所に無いのであれば、外から取って来るしかない。どこなら出すか?」

どこに行くか。「経済自立なんだから、やっぱり銀行でしょう。」

2009年12月国の最大手銀行 Banco Nacional を調べたところ、女性の経済自立支援という領域を専門に担当している Departamento de Desarrollo 「開発部」なるものが存在していることを知りました。私はそれまで、銀行の中に開発部というものがあり、そこが女性の経済自立支援を専門に担当しているなんてことは、一切知りませんでした。「これは会いに行かなくちゃ。」 とはいえ、銀行相手の話し合い。2009年当時の私のスペイン語力ではどうしようもない。というか、お話にならない。けれど、ここでの私の仕事は2年間限定。急がねば。

銀行に限った話ではありませんが、私は元々”この国(というかこの地域)における女性の経済自立に関する業界関係者に、早いうちに一通り挨拶をしに行かなくては。”と考えていました。関係する各銀行・各省庁・各ONG(NGO)・各ネットワーク代表者などなどへ、顔を合わせに行く必要がある。この挨拶回りは、この地域で現状必要とされているニーズを正しく把握する上で、私なりのその地域社会のマップ図を作り、それぞれの立ち位置・役割を、実際の人と顔を一致させながら把握するために、とても大事な仕事と考えていました。

そのためにも、ここで仕事をしていく上で「この語学力では最初は無理。初めのうちは通訳が必要。」と考えていました。しかし、そんな優雅な予算が確保されているわけもなく。それに現実的に考えて、コスタリカで私の通訳ができる人間がどれだけいるというのでしょう?「どうやって見つけようかな・・・。せめて英語・西語の通訳を見つけられると良いのだけれど。」
ところが。こういう時の私は、本当に引きが強い。2009年12月の全国女性課会議に参加した時、同じテーブルの女性のコスタリカ人から「日本人ですか?」と日本語で声をかけて頂く機会がありました。日本語と西語(と英語)が堪能なコスタリカ人。”うそでしょ?”と思いましたが、こういう出会いは大事に大事にしなくては。
彼女の名前はMaritza Ulate氏。今でもずっと一緒に仕事をしている、大切な大切なプロジェクトスタッフです。今では、上記 Finanzas Sanasクラスと、Valoresクラスの講師を担当してもらっています。人のご縁とは、本当に分からないものですね。でも、必要だと思っていると、きちんと出会えるんですよね。彼女はなんと、日本で12年間在日本・コスタリカ/パナマ大使館で仕事をしていた大ベテランでした。当時の私にとっては、とても心強い出会いでした。

早速彼女に「2010年1月と2月の2ヶ月間、通訳を頼みたい。」とお願いをして(ちなみにこの交渉は、多分、少し技が必要なんだと思います。誰だって、タダでは動きません。でも、お支払いする謝礼やその予算は持ち合わせていない。さあ、どうする。)、2010年1月 の Banca Mujer の前身 Banco Nacional, Departamento de Desarrollo に乗り込みました。
幸い、銀行側はとても快く迎え入れてくれました。そして、新たな事実が発覚しました。結局のところ彼らが言っていたのは、「過去数年前にサンホセ市役所女性課のスタッフと会ったことがあるけれど、ビジネスに関する視点はおろか、全くもって女性の経済自立に対するビジョンが何もない。あれでは一緒に仕事ができない。とても困っている。」といった内容でした。


私は確かに女性課に、女性の経済自立・起業支援の担当者として参りましたが、本当にそれが現場でどれだけ必要とされているのかは、正直なところ未知数でした。

何より、女性課スタッフは心理学者に社会学者、ソーシャルワーカーなどが主で、ビジネスに関する知識もなければ、正直なところあまり興味すら持っていないように思いました。もう少し正確に言うと、国の首都であるサンホセの、その市役所女性課。サンホセ市の女性問題は全てこの課に持ち込まれる。にも関わらず、私が来た時点では課長と秘書の2人のみ。抱えているテーマは経済自立の前に、ドメスティック・バイオレン(家庭内暴力)対策、女性の政治参画運動、乳がん予防キャンペーン、子どもたちの妊娠問題・・・等々、たくさん。

加えて、コスタリカはヨーロッパ諸国にとっても絶好の国際協力の現場のようで、その首都であるサンホセ市役所は各国からの支援プロジェクトをいくつも受けていました。結果、その中で女性に関するテーマが出てくれば、上からどんどん降ってくる。課長はそれをさばききれない。「人を増やしたら?」と聞いてみると、「公務員である市役所職員はそう簡単には増やせない。市長はもう3年以上、新公務員を採用していない。」猫の手も借りたい状態でした。それを真横で見ていたので、「なるほど・・・、日本国政府からの支援というのも、この降ってくる中の1つだったんだな。。」を最初の段階で理解することに。本音を言えば少し悲しかったけれど、でも”じゃあ、いいや。”では困ります。「せっかく私が現場に来たのだから、相応のものを残したい。」

だからこそ、この流れの中で「果たして、本当に私がこのプロジェクトに切り込んで良いのか?」を確認したいと、ずっと思っていました。私が無理やり立ち上げたところで、後に続かなければ何も意味がないですから。

何より、私は”日本国政府の技術協力”としてここに来ているため、契約主体はコスタリカ国と日本国です。市役所現場とは、少し次元の異なる文脈にあります。「国家間の契約で必要とされて来ました。なので、やりましょう。予算を取ってください。」などと言ったところで、現場はまず動きません。だからこそ、まずは「女性の経済自立・起業支援は、この市役所女性課の現場で、実際のところどれほど必要とされているのか?」を確認をする必要があると考えていました。先に述べた、業界関係者に挨拶回りが大事だと感じていたのも、そのためです。現場、現場、現場・・・。政策は大事。けれど、現場がどこまで着いて来ているかは、その政策が実現するかどうかの要ですから、もっと大事かもしれません。


2010年3月には一通りの挨拶回りも終わり、私もスペイン語を随分理解できるようになってきて、大体の大枠が見えて来ました。外に足を運べば運ぶほど、社会全体の流れ・構造が見えて来て、「女性の経済自立・起業支援はこの社会においてとても強く必要とされている。何より、対象女性たちがその支援を強く望んでいる。」ことが分かりました。その中における市役所女性課の期待されている役割が見えて来て、「結局のところ、ボトルネックは市役所だ。」を確信するに至りました。
市役所の外に出れば、日本では考えられない程、女性の経済自立支援に関する研修や販売機会、他にも様々な機会が多々存在している。同時に、彼らは顧客(=女性たち)を集めることができずに困っている。つまり、せっかく良いサービスがたくさんあるのに、肝心な女性たちにしっかり届いていない。一方、市役所には嫌でも毎日女性が「助けてください」と流れ込んでくる。市民との接点は、市役所が誰よりも得意とするところです。であれば、その両方をつなぐ仕事こそが、まさに市役所の役割だと思ったのです。

もしこの段階で、私の確信が「なんだ。女性の経済自立支援は、この国の現場ではあまり必要とされていないんだ。業界はおろか、むしろ***の方が必要とされている。」という結論に達していたら、私はきっとその***を実現させるプロジェクトを考え、その実現のために動いたと思います。つまり、私の中でこの確信を得たことは、原動力の原点確認のために、とても大事なことでした。


「うっしゃ。切り込むぞ。」


続きはまた今度。