2011年7月11日月曜日

Caso Karla 1 Karlaさんのケース1

さて。改めて言うほどのことでもありませんが、私はここで山のような失敗を経験しています。どれもこれも、”ここに到着するまでのプロセス”と言えるものなので、基本的には「失敗は最大の勲章。」と思うようにしています。その中に1件、明らかに「このケースは大変に良い勉強になった。」と思っているものがあります。これは、ソーシャルな仕事、もしくは、この手の経済自立・起業支援の仕事において良く起こりがちだと思うため、書き留めておきたいと思います。


コスタリカに来てすぐの2009年11月の時点で、女性課は忙し過ぎて女性の経済自立・起業支援へは全く手が回らず、何よりスタッフのプロジェクトに対するモチベーションもそこまで高くは無いことが分かり、「果たしてこのプロジェクトは本当に必要とされているのだろうか?」という疑念の気持ちで居ました。それを拭い去るべく、120名の女性たちを対象としたアンケート実施してそのニーズの高さと必要性を確認し、同時に、市役所の外へ足を運べば運ぶほど女性の経済自立・起業支援に関するサービスが既に整っていることを知ったことで、「上も下も揃っている。ボトルネックは市役所にある。」を確信するに至り、ちょうど「よし。ぶつかることを覚悟で、切り込む。」と覚悟を決めた、2010年3月頃です。

120名のアンケート対象者の中に、圧倒的な金銭感覚・ビジネス感覚を持った人が居ました。名前はKarlaさん。6名の子どもをシングルで育てていて、子どもたちには誰も明確な父親が存在していませんでした。想像してみてください。6名の子どもを、たった一人で育てている30代後半の女性を。「とんでもないな。。」と思いました。何より、彼女の製品が素晴らしかった。彼女は自宅で、子ども用ベッドリネンを中心とした商品を製造していました。2010年3月の時点で、サンホセ市内の6店舗に直接商品を卸していました。そのため、アンケートの回答内容(特に、月平均家計簿と、ビジネスの月平均収支)は、他の女性たちとは異なるレベルで書かれていました。「これだけきちんと売れるものを持っていれば、可能性は大きいだろう。」そう感じた私は、単純に、サポートしたいと、思いました。

彼女に直接電話をし、「話をしたいから、女性課に商品をいくつか持ってきて下さい。」と伝えたところ、彼女は大喜びでやって来てくれました。それは私にとって、彼女個人の話を聞くだけでなく、市役所の対象女性たちがどういう状況にあるのかを知る良い機会になるだろうと考えていました。全体だけでなく、個々のケースも知っておきたい、と。「どんなことに困っているのですか?」話を進めるうちに、彼女は泣き出し、今までの人生がどれほど苦労に満ち溢れたものであったかを語り始めました。それはそれは大変にドラマチックなものであり、聞いている側も「確かにそれは大変だ・・・。」と思う内容でした。

少しづつ全貌が見えてくると、彼女は数か所の銀行以外の金融機関からの負債、総額1,300,000₡ = 2,600$(元本) を持っていました。この額は、コスタリカのシングルマザー個人ひとりが抱えている額としては、とても大きなものです。十年以上前に借りたものが5件、5年前前後に借りたものが2件。彼女は返済に関する訴えの裁判を起こされていました。しかし、「こんなに高い利子は不当だ。」として、裁判に臨むことを拒否していました。この問題を、「どうすれば解決できる?助けてほしい。」と相談されました。

私は、「まずは、どこからいくら借りて来ていて、どういうプランで返済することになっているのか、整理した方が良い。契約時に、書面で返済計画が書かれた契約書を受け取っているはずだから、それをしっかり読み直しなさい。」と伝えました。ところが彼女によると、「コスタリカでは、借りた側は契約書というのはもらえない。貸し手側が持っているだけだ。手元には無い。だからこっちは事情が分からない。」と言うのです。「そんなはずは無いでしょう。探しなさい。」そう伝えました。しかし、「無い物は無い。」と真剣に言っている。その目を見ると、どうも嘘ではないらしい。そこで、近くの市役所スタッフに「金銭貸与関係がある金融機関から、契約書を受け取らないなんてことがあるのか?」と聞いたところ、「その可能性は全くゼロとは言えない。」と言われました。?!それはびっくりだ。「そうか・・・。これも文化の違いと言えるのだろうか・・・。いや、でも、あり得ない・・・。。」と思いつつ、再度話をすることにしました。
「気がつくと裁判所から文書が送りつけられて来て、(彼女にとっては)明らかに不当の利子が付いた金額の返済義務があると迫られている。」と。もはやその真意を問うには、借し出した金融機関に直接問い合わせるしか道はありません。「では、全ての関係ある金融機関に直接電話をして、問い合わせて、しっかり確認をしなさい。一体、”今現在の時点で”いくらの負債があって、いつまでに返さなくちゃいけないのかを。まずはそこを正確に把握できなかったら、解決方法を探したくても、探せません。」1週間後、彼女が持ってきた回答は「電話したら(その金融機関に)捕まってしまう。怖くてかけられなかった。」

参ったな、と。

「利子が不当な額だ。」と言いたくなる額を突き付けられている、という点は、何となく理解していました。というのは、毎朝読む新聞の折り込み広告を見ていたからです。パソコン等の電化製品や少々価格の高い商品には、一括払いと分割払いの2種類による購入金額が書いてあります。その額が、日本では考えられない程(一括払いの3~4倍)高いからです。「だったら待って買おうよ。。」日本人の感覚であれば、明らかにそう判断するように思います。「そこまで待てないの?」と言いたくなりますが・・・話を戻すと、ということは、銀行以外の金融機関からお金を借りたとなれば、それはそれは相当な利子額に違いません。

しかし私は、弁護士でもなければ、公認会計士でもありません。何より、コスタリカの法律事情は良く分かりません。こういう時は、その専門の人間に相談する、に限ります。そこで、「私には分からなないので、専門の人間に相談しましょう。」と答えました。ただし、その段階では、私には現地の信頼できる弁護士がいなかったため、当時ちょうど市役所とのアライアンスの実現に向けて話が進み始めていたBanco Nacional開発部の担当者に電話をし、相談しました。「困っている女性が居る。彼女は大変に良い商品を製造している。返済能力は皆無ではないと思う。しかし現状、金銭的理由から弁護士を付けることができない。対応してもらえないか?」「了解。yukariの相談なら受ける。回してくれ。」アポを取り、市内中心地に立つBanco Nacionalの本社ビル3階の開発部会議室で、Karlaさん、銀行担当者と私の3名が集まったのは2010年5月頭でした。


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