2011年6月15日水曜日

El servicio nuevo 1 新規事業を立ち上げる1 「公共機関の中で新規ソーシャルサービス事業を立ち上げる」

私がサンホセ市役所女性課に到着した2009年11月。その時点では女性の経済自立・起業支援に関するプロジェクトは、ほとんど皆無の状態にありました。その名の元に15名前後の女性たちが集まってはいましたが、経済自立という言葉とは程遠い状態。正直な感想を言ってしまうと、第一印象は「お友達クラブ」でした。女性課は心理学者と社会学者の人たちで、ビジネスに関する知識や感覚はほとんど持ち合わせていません。市役所にとってお客様にあたる市民と、お友達として関わりを持つことは決して悪い事だとは思わないけれど、女性課が設立された8年前からほとんどメンバーも変わることなく、新しい人たちが入ってくるような空気もなく。この状態は市役所としての姿か?と考えると、残念ながら、大きな疑問がありました。とはいえ、突然やってきたしかも外国人が「この友達クラブは解体しましょう。」と言ったところで、聞いてくれる訳もなく。

女性課というもの自体は、8年前に INAMU (Intituto Nacional de las Mujeres) 国立女性研究所という国の機関がトップダウンで全国88か所の市役所に設立したものです。当初は主に、ドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)の女性たちをサポートするための機関として設立されました。そこから徐々にサポート業務が増え、女性の政治参画に関するサポートや乳がん予防キャンペーン、今では未成年女性(特に12・13・14歳の子どもたち)の妊娠問題に対応するためのサポート業務も持っています。その流れの中で、「女性たちを経済的にも自立させていくサポートができないか。」という流れが出て来ました。しかし、先述の通り全国にある女性課に居るのは主に心理学者や社会学者。ビジネスや商売の人間はいないため、日本国政府にその支援を頼もうということになったようです。そこに私がやって来ました。


しかし実際に2009年に現場で仕事を始めて感じたことは、経済自立うんぬんの話の前に、とにもかくにも「人手が全く足りません。」ということでした。明らかな人材不足。考えてもみれば、人口45万人のサンホセ市の女性に関する問題を全てこの市役所女性課で解決しなくてはいけない。毎日のように、様々な問題を抱えた女性たちが市役所女性課には流れ込んできます。やれ、「子どもを置いて男に逃げられた、どうすれば良い?」「親の介護で疲れ果てて、生きる希望が持てない」「乳がんの手術で胸を失くして悲しくて仕方が無い、もう死にたい」・・・。にも関わらず、それを2009年当時はたった2名(1名の課長+1名の秘書)で捌いて(さばいて)いる状態でした。そのため、名目上、「私を呼んだ理由の、女性の経済自立についてはどうしますか?」と聞いたところで、「それどころではない。」というのが当初の市役所スタッフの本音だったように思います。「猫の手も借りたいから、国籍関係ないから手を貸して。」という感触すら受けました。挙句にここは、pura vida のコスタリカです。日本のようにあくせくは働きません。上から降って来て捌ききれなければどうなるか。その問題は、誰も手を付けづに放置されるだけです。

参ったな、と。

でも、「せっかくこんな遠くまで”女性の経済自立・起業支援”の責任者・専門の人間として、わざわざ日本からやって来たのだから、ある程度の形=仕組みは残したい。」と思うのが人間の性。それをエゴだと言われようが構わない。それが私の仕事だし、私はそのミッションで呼ばれてこの場所に来たのだから、達成するしか道はない。なので私は最初の段階から、市役所内の新規事業として女性の経済自立・起業支援のプロジェクトを立ち上げることが私の仕事だ、と腹をくくることにしました。きちんと市役所の中で受け入れられ、「これこそが求めていたプロジェクトの形だ!」と言われるものを残そう、と。


市役所の中で新規事業として立ち上げよう、と思ったことには、実はいくつかの理由があります。

まず1つ目。私は日本で、省庁(厚生労働省・文部科学省)の各種委員会委員を6年間務めさせて頂いていました。その仕事を通じて、「国がいくら良い政策を作ったとしても、それを現場に落とすのは本当に難しい。」ということを、目の当たりにして来ました。委員会の仕事は多岐に渡っていますが、その中に、”数十億円単位の予算を元に、とある問題解決をするべきテーマを実施する企業や団体を全国各地から募集し、各企業・団体から提出された企画書を委員会内で審議をしたうえで、予算(主に3年単位)を配分=投資する実施会社を審議・決定し、その経過・結果を評価する。”という仕事も多くありました。審議に通れば、その会社は約3年間の国の予算が保証されるため、様々な情報が交錯している場でもあります。しかし、それにしてもその実施は本当に難しい。なかなか思うようには行きません。「こんなに躍起になって、各会社が予算獲得を目論んでいるのに、実際に本当に正しく市民にその予算が使われているのは、一体どれほどなのだろう?」生意気かもしれませんが、私の眼にはそう映る場面が何度もありました。何というか、市民のかゆいところに手が届くようなサービスを実行できる団体・会社が、あるようで、なかなか無い。(結果的に、国家予算の請負団体・会社は、一部の特定会社に集中しがちになります。)

それで、ふと冷静に考えてみたのです。私のようなソーシャルベンチャーの人間ならば、そもそも市役所という市民に最も近い公共機関の中に入って、新規事業としてプロジェクトを立ち上げれば、話が単純且つ早いのではないか?と。日本では、公共機関というものは常々同じ業務をずっと続けているイメージが強く、ベンチャー的に新サービスを生みだす事はあんまり盛んではないのかもしれませんが、(とはいえ、日本も随分変わって来ていると思いますが・・・)、そういう試みをやってみても良いのではないか?と思ったのです。ならば、せっかくやるなら異国の地で、まっさらな状態から立ち上げてみたい。新しい言葉も勉強したい。そんな気持ちが、次の自身の成長ステージは海外だ、と向かわせたのだと思います。(なぜコスタリカ国なのか、については後述。)

そのような背景があったため、市役所の中で、市民の顔を直接見て、市民と直接話をしながら、国の政策や方向性を確認し、その両方をすり合わせていくことが、ここでの私の仕事と認識し、2009年11月から市役所女性課で仕事を始めました。


2つ目の理由は次回El servicio nuevo 2 新規事業を立ち上げる2 「立ち上げ(創業)係と継続係の役割分担」


※女性課課長Vivian コスタリカ大学出身の、実はものすごく頭の良い課長。普段は超pura vida。


※女性課秘書Rosa 市役所秘書歴18年、大ベテランの有能秘書。ロジをやらせたら右に出るものなし。