2011年6月22日水曜日

Madre soltera シングルマザー国家?

本日は、少し視点を変えたところから。

市役所女性課で女性の経済自立・起業支援の仕事をしていると、”女の人生”というものを考える機会と、多々遭遇することになります。私は元々、若者たちの自立支援をしてきたため、正直、女性問題については全くのど素人です。もしかしたら、見当違いなことを書いてしまうかもしれませんが、この現場で仕事をしながら感じていることを、次回との2回に分けて、少し素直に書いてみたいと思います。


プロジェクト対象者の女性たちは、シングルマザー、世帯主女性や教育レベルの低いとされている女性たち。特にこの国は、シングルマザー国家?と感じるほど、シングルマザーだらけの国です。しかも、父親の異なる2人・3人の子どもを平気でシングルで育てている。ものすごい逞しさを感じると同時に、「女は強い・・・(汗)。。」と、感じざるを得ません。正直、完全にタジタジです。。

なぜ、ここまでシングルマザーが多くても、社会の中でやっていけるのでしょうか?
今回は、先日文化人類学専門の方からお聞きした内容と私が日ごろ市役所で働いていることで見ている状況を併せて、お伝えしたいと思います。


1、人的なセーフティーネットの存在
子どもの父親と別れても「ここで暮らせば良いから、帰っておいで。」と言ってくれる居場所があること。確かに、この国の多くのシングルマザー兼世帯主女性は、実家に帰って親(特に母親)と暮らしているケースが目立ちます。私もこの国に来て初めに行った調査の際に、対象女性たちの多くが古くからの”持ち家”に住んでいるため、家賃を支払う必要が無い経済状況に置かれていることを知って、少し驚きました。土地もあるし家もある。更におばあちゃんは、「帰っておいで。」と言ってくれる。子どもを抱えて一人暮らしをしている、というケースはほとんど見かけません。それは、まだ貧しい、という点もあるのかもしれません。家族で肩を寄せ合って暮らしている感がありますが、それは別の見方をすると、人的セーフティーネットがある、と言って良いのかもしれません。



2.社会的なセーフティーネットの存在
この国には、日本には無いいくつかの特徴的な仕組みがあります。その前に、コスタリカは中南米特有の男性権威主義(マチスタ)が強く残っている国であることを、先に明記しておきたいと思います。

1)女性の政治参画が盛ん
以前も少し書きましたが、昨年2010年5月に行われた総選挙で選ばれた今のコスタリカ国大統領は、50歳の女性 Laura Chinchilla氏。それだけではなく、総議員57名のうち22名が女性で、約39%が女性議員です。この割合は、列国議会同盟(IPU)184カ国中10位に位置します。国際的に見ても、コスタリカの女性の社会参画、特に政治参画は、大変進んでいると言えるでしょう。政治的な部分で女性がとても活躍しているという点は、社会的なセーフティーネットが生まれる土壌が整っている、と言えるかもしれません。

2)国立女性研究所と女性課
コスタリカには、INAMU (Intituto Nacional de las Mujeres) 国立女性研究所という国の研究機関があります。そして、そこからのトップダウンで全国の全市役所に「女性課」が設置されています。つまり、市ごとに逃げ込み場所が(まがいなりにも)整っています。”何かあったら、女性課へ”。

3)親権責任法
マチスタが残るコスタリカにおいて、国教がカトリックで中絶が認められていないため、父親のいない子どもが大変多く存在しています。2002年に生まれた新生児のうち、約50%が婚外子であったという統計もあるほどです。この”父親のいない子ども”を防ぐために、2001年に「親権責任法」なる法律ができました。これは、認知をしない父親と話し合い、それでも解決しない場合は国費でDNA鑑定を行うことで、子どもに名字と養育費を与える事を定めた法律です。ラテンアメリカにおいて初めて、子どもに必ず父親と母親を持たせるための法律として設立されました。
1, 母親は父親を指名できる。
2, 指名された父親は2週間以内に異議申し立てができる。
3, 母親と父親の意見が食い違う場合は、国費でDNA鑑定がなされ、最終的に父親が確定する。
この法律が施行されて以来、状況はずいぶんと改善されたそうですが、指名された父親が異議申し立てをする率はわずか8%と言われています。この数字は何を示しているのでしょうか?つまり、”異議申し立てをして来ないことを前提に、女性側が申請をする”ということです。結局のところ、申請への調査がなかなか進まないことや、申請をすることで暴力をふるわれることを恐れた女性が申請しづらいことなどが問題として存在し、申請まで行かないケースが大多数。それでも、誰が父親なのかをはっきりさせ、養育費を支払わせるための法律が存在しています。
実際、当市役所女性課に来る女性たちを見ていても、父親が明確になっていない子どもを持つ母親も居ます。また何よりも、父親が誰か分かっていたとしても養育費を受け取っていないケースが(今のところ)目立ちます。浸透するにはまだ時間がかかりそうです。


3.社会的なメンタリティーの存在
何よりも、これだけの数のシングルマザーが居る。コスタリカは日本ほど、他人や社会の目を気にする風習はありませんが、それでもこれだけ数が居れば、"シングルマザーは珍しくない。自分も何かあれば・・・。"という社会的なメンタリティーが、明らかに存在しているように思います。


この2つのセーフティーネットの存在と社会的なメンタリティーは、異なる父親の子どもを複数抱えるシングルマザーを守る環境が、完全とは言えないにせよ、日本と比べれば比較的整って来ている、と言って良いのかもしれません。

一方、変な話ですが、離婚する家族を見ていると、父親側が少し気の毒に感じることもあります。父親側が子どもの養育権を取ろうと思っても、この国ではそれはとても難しいように思います。以前、「コスタリカには女性課はもう良いから、男性課が必要だ。」と誰かが言っていたのを聞いたことがあります。実際、「確かにそうかも。。」と感じることも、今まで何度かありました。女が表面的にも強い世界というのは、日本で当たり前と思っていた世界観とは随分異なるようです。


続きは次回