2011年5月13日金曜日

Las señoras 対象女性たち

経済自立・起業支援の対象女性は誰か。あくまでも市役所の公共サービスの対象者となるため、基本的には、

・シングルマザー Madre Soltera
・世帯主女性(日本語にすると、大黒柱の女性?) Jefa de Hogar
・教育レベルの低い女性たち Bajo nivel de educativo

が主です。実際、確かにそうです。いわゆる”普通のおばちゃんたち”です。ですので、前回書いたように「宝くじ?」と言われてしまうのも、分からなくもないんです。確かに一理ある。更にスタッフは心理学者にソーシャルワーカー。ビジネスの知識も経験も皆無。無理もありません。だからこそ、私が来た、と。

正直を言うと、この場所に来た当初、貧困層という言葉ばかりが私の頭の中で先行して、勝手なイメージを自分の中で作り出していたように思います。それこそ、”テントで暮らしていて、食べるものがほとんどなくて・・・”と。ところが全く違いました。そのレベルの人に対する支援は、経済自立・起業支援とは言わず、別のソーシャルセキュリティーの仕組みがありました。それで最初の段階で、「これは本当に自分の目で見て確かめないことには、本当のところ何を提供すれば良いか、判断を誤るな。イメージだけで考えてはいけない。」と、改めて、基本原則を強く感じたのです。

そこで何をしたか。2010年1月の段階で市役所女性課と既にご縁のあった女性たち100名に対して、一斉にアンケート調査を行い、更に数名の方の家庭訪問することを決めました。どのレベル感で暮らしている人を支援すれば良いのか、肌感覚で感じたかったためです。前述通り、女性課は8年前にできた課でしたので、既に100名程度の女性との関係は存在していました。また、経済自立支援として15名程度の女性たちがグループを作り、手作り商品を作ってバザーのような形で販売する機会を得たり、2009年7月に1度、自尊心クラスを実施した経験がありました。彼女たちの生活を知りたい、と。

彼女たちにとっては少しハードかもしれない、と思いつつも、A4 11枚、押さえておくべき情報を洗いざらい聞きだすことにしました。基本情報(名前、住所、年齢、電話番号、最終学歴、既婚・離婚・未婚・別居等の属性、子どもの数、各年齢、PCの所有有無、メールアドレス・・・)から、1カ月の概算家計簿数値、1カ月の概算現時点での販売収支数値、商品に関する詳細情報・顧客情報、女性課との関係性、女性課に望むこと。かなりの量ですが、しっかり教えてもらわないことには、こちらが何を提供すれば良いのか決められないため、「やってください。」と(ここはトップダウンで。市役所特権で。)協力をお願いしました。それが、結構すんなり、皆さん楽しんでやってくれる。お陰さまで3週間で120名のデータを集めることができました。

分析の結果、分かったこと。7つ。

1.土着のため家がある=家賃を払う必要がない。シングルマザーで複数の子どもが居ても、親と暮らしている人が大多数。 →大人になっても親と同居している、というこの国のカルチャー
2.難しいと言いながらも、11枚のアンケートを全員がしっかりと答えられる・記述できる →読み書き・四則演算、問題なし(この国の基礎教育レベルの高さ)
3.PCを持っている人は全体の52%、メールアドレス所持者はその90%
4.各自が作れる商品の質レベルはピン切り →市役所女性課にリーチする女性たちの中にも、いくつかのレベルが存在する=レベル(段階)に分けてそれぞれの支援を提供する必要がある
5.市役所にとっての顧客(女性たち)の流れが全くない →約8年間、ほぼ同じ女性たちが女性課と関わりを持っている=他の人が入りにくい、入って来ない
6.サンホセ市における女性の経済自立・起業支援のニーズは非常に高い
7.ひとりひとりが各自の家で主に手作り商品を作っている →彼女たちはグループで仕事をしない、チームで仕事をすることに全く慣れていない

前回書いた通り、とにかく市役所の外に出れば彼女たちを支援するツールや機関が山とある。その情報やサービスを、どう彼女たちにリーチさせていくか?どう社会的な底上げを量的に図っていくか。その仕組みを構築していく上で、上記7点を最初の段階で知ることができたことは、大切なポイントでした。ちなみにこの集計データは着任後4カ月以内に出しました。2年間で、新規事業を立ち上げ私が去っても残る仕組みを作る、とタイムリミットが決められていたためです。とにかく時間が無い。


なるほど、と。ただ私がざっと見たこの段階で、全くもって対象女性たちの経済自立・起業の可能性が「皆無」というわけではない、と思いました。可能性は確実にある。何よりニーズが非常に高い。彼女たちはその支援を強く望んでいる。確かに商品はピン切りですが、全員を起業家として育てろ、という話ではありません。彼女たちに経済自立という道があること、その道を具体的に示すこと、這い上がりたい人が這い上がれる機会を明確に提供することが、目的です。であれば、分かりやすい成功例を1例でも2例でも出すことが、先決です。ロールモデルの提示です。
何よりこの国には、(前回書いたように)市役所の外に彼女たちを支援するツールや機関が山とある。更に、女性たちの経済自立・起業支援に対するニーズが異常なまでに高い。上も下も揃っている。これが決定的な要因でした。この両方のどちらかが弱ければ、欠けていれば、もっと別の作戦を取ったと思います。しかし、外にこれだけある。現場のニーズは高い。「結局は、市役所女性課が鍵。市役所がボトルネックか。」と、改めて確認をすることになりました。どっから切り崩すかな、と。


次の手。とりあえず銀行を市役所に呼んでこよう。銀行員と直接この100名の女性から私が選んだ15名を直接合わせてみよう。銀行側がどう出るかを見よう。ということで、さっさとやる。アンケート集計結果が出た翌日に、結果を持って前述Banco Nacional(国立銀行)の開発部を再度尋ね、データ結果を元に、うち15名を選ぶから会ってくれ、とかけあいました。銀行側はOKの1つ返事。ところがこの時の市役所女性課側の反応は、「まともにやってくれる訳が無いでしょうに。相手は彼女たちよ。数年前に私も一度行ったことあるけど、門前払いを食らったんだから。」なるほど。「じゃあ、数年経っているんだから、もう1回やってみましょうよ。」その簡易会議(顔合わせの会)を行った際、付き添ってくれた市役所スタッフはゼロ。誰も信じてくれていませんでしたから。それでも別に良いんです。前回も書いたように、市役所スタッフに対して成功体験を積ませて行くことが、継続する仕組みを作る上で大事なことなので、既成事実、既成事実、既成事実です。完全に、確信犯。

2010年3月10日。記念すべき、第1回目の女性たちの会合です。結果は思った以上の吉に出ました。というより、盛り上がり過ぎ(笑、この顔合わせの会。各自が自分の商品を持ちより、自分の生活状況を語り、今後どうしていきたいのか夢を共有した後、銀行員が「銀行とは・・・」とその役割を大変に分かりやすく説明をしてくれて、本当に感動的な場でした。私はこの地に来て最初の会合だったので、感無量。「何より、この銀行員、何者!?」・・・と思ったのが、今のBanca Mujer現場トップ Kattya氏です。女性たちをバカにすることなく、しっかりと真正面から、銀行とは?商売をしていくとは?という話をしてくれたのです。これです、この姿勢なんです、自立支援において最も大事なことは。それもそのはず、彼女がBanca Mujerの立役者。その後もずっと一緒にお仕事をさせて頂いていますが、お陰で私は彼女と生涯の友です。

翌日女性課の電話は鳴りやまず。方々から「どうして私は呼んでもらえなかったんだ?」の問い合わせ。そして私は女性課課長から叱られる。「どうしてもっと公的にやらないんだ!?」おいおい。あんたが”まともに取り合ってくれないでしょ”と言って、挙句あんたも同席しなかったでしょうに・・・、と言いたいところをこらえつつ、明らかに「しめしめ。」なわけです。ということで、第二回銀行員と女性たちの顔合わせ会議には、総勢60名の女性と、銀行員が集まりました。

そんなこんなで銀行と市役所の関係を作りつつ、あれから1年半経った今では他行も加わり、女性たちへのビジネスクラスを実施しています。そのレベルが高い。ちょうど昨日(木曜日)、もう1つの銀行Banco Popularのビジネスクラス修了式がありました。先述の、自分には全く何もできないと信じていた”普通のおばちゃん”たちが、修了式の場で、人の前で、自分のビジネスプランを発表する姿は、自信に満ち溢れ、勇気を得た立派な女性の姿でした。私は人間がこのような形で変化する瞬間、つまり、成長の瞬間に立ち会うことが、本当に好きでたまらないのです。

ポイントをもう1度。
1.自立支援は、「必ずできる」と信じて接する・正面から向き合うことから始まる。
2.全員を起業家として育てろ、という話ではない。(実際に起業家としてやっていけるのは5%、多くても10~15%だと思っています。)
3.分かりやすい成功事例を1つ、2つ作る。それが彼女たちのロールモデルになる。 →それができれば、他の人たちはその人を真似してついて来る。ついて来れる。
4.彼女たちに経済自立という道があること、その道を具体的に示すこと、這い上がりたい人が這い上がれる機会を明確に提供することが、プロジェクトの真の目的。 →夢を与えること。希望の道筋を提示すること。

※2010年3月10日、記念すべき初回の銀行員と15名の女性の顔合わせ会


※2010年3月26日、その反響を受けて行った銀行員と女性たちの会

※2011年5月12日、先日木曜日に実施したビジネスクラスの卒業式