前回、El servicio nuevo 3 新規事業を立ち上げる3 の続き。社会のニーズの高さ(上と下の両方)の確認と、ここ市役所がボトルネック、ということがはっきりした2010年3月末。調査の結果、切り込むぞ、と決めたからには、切り込みます。
確認のために書いておくと、私が狙っていたのは、「初期投資分を外部から持ってきて、その予算で実績をしっかり見せることで市役所に継続価値があることを納得させ、安心させ、以降5カ年分の継続予算と人材を役所内で確保する。そこまでできれば、継続用人材の育成は私が責任持ってやる。」という道です。
さて。切り込むにあたり、女性課の予算は一体どうなっているのだろうか?という素朴な疑問に当たります。とはいえ、あくまで私は期間限定の外国人。「予算案、見せてもらえますか?」と聞いたところで、そう簡単には、見せてくれません。どうやったら本当の意味で仲間に入れてもらえるかな?を画策してはいましたが、最初の段階は先方(市役所)も私に対する様子見状態が続いているため、なかなか具体的な数字は見せてくれません。そこで、「市役所の予算確定フローがどうなっているかを教えて欲しい。」と伝えたところ、毎年下記のようなルーティンになっていることを知りました。
2010年 1月初日 2010年度初日
2010年 5月末日 2011年度予算案を作成し、計画部へ最終提出
2010年 9月初旬 2009年度実績を元に2011年度予算案が確定、計画部より指示
2010年12月末日 2010年度〆
2011年 1月初日 9月に確定した予算案に基づいて2011年度実施開始
つまり、5月の段階で次年度丸一年分の計画を、ある程度詳細まで仮にでも決めておく必要があります。この辺りが、民間と違って全く融通が利かないところ。私が女性課に来たのは2009年11月で、かつ、最初の段階では本プロジェクトに対するモチベーションが高くはなかったため、2010年度の女性の経済自立・起業支援プロジェクトに対する予算案は、なんと私の分のjicaに支払う人件費のみ。具体的には、70,000₡x12カ月=840,000₡(=1,680$、約14万円/年間) さすがに、これでは何もできません。結果的に、立ち上げるプロジェクトへの資金集めは自分でする他ありませんでした。
更にびっくりしたのが、交通費すら出せない、という事実。2010年の初めに行った挨拶回りを初め、どう考えても交通費が必要です。私は初めのころ、自費でタクシー代を出していました。その費用を清算したいと伝えたところ、「課には専属の運転手がついているからその実費は1₡コロンも出せない。」と言われました。どおりで、タクシーに乗った際に「領収書を下さい。」と言っても「そんなものは無い。」と言われるわけだ。でも実際は、課の他スタッフと何度もバッティングをして、必要な時に必ず運転手を出せるという保証はありませんでした。足が無ければ、動けない。
結局のところ交通費に限らず、前年度5月の段階で、お金の使い道が詳細に確定されてしまっているため、計画されていないものには一切出せない、ということが分かりました。おいおい。「どうやって私は仕事をするんだろうか?日本人をわざわざ連れて来て、予算ゼロで一体何をしろと言うんだ?」と言いたくなるところをグッと堪えて、「でもせめても、予備費は設定してありますよね?その予算で執行できる費目は何ですか?」「・・・。」 つまり、予備費を執行したことは今まで一度もない、と。
私 :「ねぇ、素朴な疑問なのだけれど、使い切れなかった予算はどうなるの?」
部長:「全部一度チャラになる。」
私 :「次年度には持ちこせないの?だって見たところ、全然使ってないよね?」
部長:「ダメ。全く持ちこせない。」
ん?
予算の立て方、根本的に間違ってないか?
イヤな予感は、後に的中します。
とにかく、できることから形にしていく他ありません。
予算ゼロ。完全な人材不足。経済自立に関するビジョンも皆無。もっと言えば、モチベーションもゼロに近い。どうやら予算案の立て方も間違っているっぽい。
それでも事業は立ち上げる。
「金は、あるところから、持って来る。」 基本原則。
2010年私がプロジェクトの資金集め、早い話が営業を試みた一覧は下記の通り。
-日本大使館 草の根無償補償資金
-ドイツ大使館 小プロジェクト支援予算
-Unión Europea ヨーロッパ連合 女性支援予算
-Banco Nacional 国立銀行開発部
-PRONAMYPE (Ministerio de Trabajo/労働省)
-Micro Softo Costa Rica マイクロソフト・コスタリカ広報部
-IBM Interamericano アイ・ビー・エム中央アメリカ広報部
-BID (Banco de Interamericano de Desarrollo) 米州開発銀行
この試みを通じて分かったこと。
最終的に上記の中から「女性の経済自立・起業支援」のソフトウエア(人材育成)支援に対して、2010年に実際に執行されたのは、国内機関 Banco Nacional と PRONAMYPE (Ministerio de Trabajo/労働省)の2つによる、ビジネスクラスの全実施費用分でした。
各国大使館等の外国のお金をコスタリカ国で使おうとした場合、どこの国においても建物を建てる・大きな機械を購入することが通例であり、物理的に何かが残る=その国の旗が付けられ反永続的にそれが残ることが大事、なのだと理解しました。ソフトウエア実施例は前例が少なく、評価が難し過ぎる。特に「残りにくい。効果が目に見えにくい。」ということになるようです。特に、ドイツ大使館は非常に分かりやすく、きっぱりと「ハードにしか出せない。」と言い切ってくれました。これはこれで、分かりやすいです。ちなみに、日本大使館は日本語が通じるにも関わらず惨敗。12年前に日本で資金集めをしていた頃、省庁関係者からしきりに「ハード重視。」と言われては断られていた時代を思い出しました。(余談ですが、今では税金無駄遣いの象徴と言われてまって閉館した京都府の「しごと館」。後の開館記念講演に厚生労働省からお招き頂いて、お話させて頂いた講演者のひとりでした。私はしごと館のビジョンがとても好きだったのですが、「立派な建物も大事だけれど、中身をもっと充実させていかないと・・・」というお話をさせて頂きました。)
また大企業からの協賛を試みた点においては、コスタリカ国内にある支社はどちらもコールセンターが主のため、実際の協賛を確保するには米国まで出向いて欲しい、という話になりました。残念ながらサンホセ市役所女性課で働いている私にはそれを交渉するだけの交通費も時間もありません。せめて不要になったPCを実物で女性たちに配れないものかとも思ったのですが、それをするにも米国に行って話をつけて欲しい、ということになり、選択肢として消えました。これはさすがに仕方が無いかな。
開発銀行のBIDに関しては、Social Venture Program というあまりにもドンピシャ過ぎる予算枠があったので「これは欲しい。」と本気で取りに行ったのですが、最終的に米国を含む中央アメリカ各国の担当者をたらい回しにされた結果、最後の最後で、私が2年間しか居ることができない=2年の短期間では最後まで見きれないから出せない、という結論に達しました。この結果は、かなり踏ん張っただけあってショックが大きかったです。これは悔しかったなぁ。。
いずれにせよ、最終的に国内機関での実現となりました。これは、結果論として考えれば最高に良い結果なのではないかと思います。女性の経済自立・起業支援に関しては、国外の支援を求めるよりも、自分達の力で実現することができる・実現した方がよっぽど早い、という意味なのですから。加えて、どこの支援も取り付けていない最初の段階で投資を決めてくれた Banca Mujer (Banco Nacional) は、本当に心強い味方でした。後に、盛り上がって来てからお金を入れることを決めるのは、比較的簡単なことです。それよりも、最初の最初、まだ誰も付いていないところに出資を決めてくれるという事は、覚悟を共にしてくれるパートナーという意味ですから、大事にしなくてはけません。私はこのことを日本で心底学んでいましたから、Banca Mujer とは運命共同体だ、ぐらいに思っていました。
そんな 矢先、事件が起こります。
2010年9月に発表された2011年度女性課予算が、なんと、申請していた額から何と75%もカット。「え”?」 そして課長は泣く。「女性たちに会わせる顔が無い。どうしよう・・・!」そりゃ無いわな。。。半ば、自業自得でしょうにと思いつつ、「うーーーん。何とかするから、ちょっと待ってなさい。」とはいえ、どうするかな。「とりあえず予算案。ちゃんと見せて。何をしたいの?」「これ・・・。」 このことを機に一気に仲間に入れてくれることになるのですが・・・、そこまでカットされたら、プロジェクトの継続予算もへったくれもありません。一体何が起きているのか?
ということで、計画部の担当者に直接聞きに行く。
「女性課は、全く仕事をしていないじゃないか。予算だって、全く使い切れてない。計画しているものを実施していないんだよ。2009年度なんて、ひどいもんだ。そんなところに、出せるわけがないじゃないか。おまけにyukariが居て、外からお金を持ってくるんでしょ?だったら必要ないじゃない。今、市役所は本当にお金が無いのよ。」
・・・おいおい。(汗
しかし。決まってしまったものは、決まったもの。
とりあえず、どうにかするしかありません。
即刻、課長Vivian、秘書Rosaと私の3人で、緊急会議。何ができる?
私 :「今までは普通に予算がついていたのに、何でそこまで急に変わったの?」
課長:「今年の頭にChinchilla大統領が就任して、うちの元副市長のMaureen氏がINAMUの代表に引っこ抜かれてしまったから(この投稿、一番下参照)、女性課の政治的立場が市役所内で弱くなったんだと思う。今まではMaureen氏のお陰で取れていた分が、ごっそり削られたんだと思う。」
私 :「ということは、これからは自分達でどうにかしなくちゃいけないということだよね?他人任せにできないよね?」
課長:「・・・。」
私 :「私が外部機関から取れたのは、Banco Nacional からのビジネスクラス実施費20名分(80時間)と、PRONAMYPE(労働省) からのビジネスクラス実施分40名分(60時間)。多分この流れから考えると、競合にあたる Banco Popular は取れると思う。けど、それらは全て研修実施費であって、他のもの(会議実施時の食料費や、フェリア実施費、印刷費、その他の研修費等)は無いよ。」
課長:「とにかく、最低でもフェリア実施分は確保しないとまずい。PAEM以外にもプロジェクトはいくつもあるし・・・。」
その時、秘書Rosaが素晴らしい指摘。
秘書:「とりあえず、市議会の女性委員会 Comisión de la situación de la Mujer に課長が直訴に行くしかないでしょう。そこで市役所予算が決まるのだから。」
課長の目が変わり、その場で委員長に電話。
課長:「話があります。事件です。」
翌日、彼女はその委員会に直訴に行きました。
こうなってくると、流れは一気に良い方向に向きます。
そうこなくっちゃ。 :-)
続きはまた次回。